>>

お問合せは、 まで。

 

バーテムズの企業理念

唐突ですが、バーテムズが提供したいものは何か。

まず表面的なことを分かりやすく言うと、「場所や時間に極力制約されずに人々が働ける会社」になると思います。これだけネットワークが発達してきたわけですから、そろそろ新しいワークスタイルがもっと定着しても良い筈です。そういう事を、少しずつ耳にしたりもしますし、政府だって高齢化や少子化などの諸問題の対策として応援ムード満点です。それでも、さて調子よく発達しているかというとまだまだそういった感じはありません。今はまだ最初の取っ掛かりの時期であることも否めませんが、今後こういった仕組みがどのように社会に馴染んでいくのかは、そうそう簡単に予測できないことでしょう。…というか、そもそも、そう簡単に社会に馴染めるものなのでしょうか?

置き換え出来ないこと。

例えば、パーソナルコンピュータの登場と発展が、いわゆる世間の事務処理の効率を大きく変えたのは間違いないかと思います。今さらコンピュータ無しで報告書の作成やら売上の計算やらをしないといけないとなると、うんざりというか、きっと僕にはできないです(大変だし)。そんなふうに、何かの間違いで不幸にもまだそういった恩恵に預かっていない人々を除いたら、一度コンピュータの便利さに触れてしまった人は、それ無しでは日常業務もおぼつかないでしょう。僕は手元の電卓すら、見当たらなくなったらオロオロします。もうこの社会においては、そういった電子機器が無くてはならない存在になっているのでしょうし、別の言い方をすると社会の重要な一部になっているんだと思います。電卓の誕生から何から何まで電子化されつつある現在に至る迄には相応の年月を要しましたが、比較的容易に、順繰りに、それらは社会の部分々々を置換してきたように思います。相応の時間を要したのは、コストやスキルや技術の一般化といった別次元の問題だったように思います。原理上、これらのリプレイスは比較的容易なものでした。

でも、僕らが実現したい新しいワークスタイルは、そう簡単じゃなさそうです。

「インターネットが発達してインフラは整ってきた。電話(音声通信)やテレビ電話も無料で使えるし、1GB のメールもデータもネットで送れるようになった。いやもう大丈夫だ。明日から君と君は自宅で仕事をしてくれ。オフィスも小さくて済むしね、助かるよ。君たちも通勤という無駄な時間を過ごさなくて済むしね。ああ、でも定期代はいらないね。ん? わかった、代わりにインターネット通信費用の半額は会社が持とう。でもバス代よりも安いな。PCも支給するよ。もう大丈夫。これからはテレワーキングだ!」…というように簡単ではないようです。簡単だったら、もうずいぶんと流行っていてもおかしくないですしね。

では、何が難しいのでしょうか。

ネットワークの岸辺。

僕らはこの会社を作った当初から、時間と場所に制約されずに労働するというコンセプトを持っていました。当時は、もっと別の大きな理念があり、このコンセプトは理念の具体形の一部でしかありませんでしたが、それでもバーテムズの前身であった InfoDesign の社員は皆分散して個々の自宅(あるいは近所の落ち着いた喫茶店、あるいは天気の良い日の公園)で仕事をするようになりました。最初は問題は小さくてあまり目につきませんでした。何かが上手く行かないことがあっても、それは例えばやる気が無いだとか、考えが甘いだとか、そんな別の次元の問題にすりかえられる場合もありました。でも、時間が経ち、スタッフが入れ代わって行くと、問題は少しずつ目に付くようになって来ました。

例えば、貴方と貴方の同僚が仕事をしています。ちょっと分からないことが出てきます。貴方は隣の同僚に声を掛けて聞いてみます。「ちょっとこれなんだけれど…」。2、3回言葉を交わして貴方は「あぁ」と納得して答えを得ます。同じ品質のコミュニケーションは、例えば電子メールではなかなか上手く成し得ません。メールは単に情報を伝達する時にはとても便利ですが、いわゆるコミュニケーションの道具としてはとても面倒な代物です。メールの弱点の一つはインタラクティビティがとても低いことで、例えば何かの質問や、ディスカッションの場など、話の成り行きによって内容が変わっていくコミュニケーションには、実はとても不向きです。

チャットなどの技術を用いたら、その問題は幾分状況改善しますが、もちろん解決には至りません。それにくらべると普通の電話や VoIP による通信は比較的有用な手段です。議論や質疑応答や相談事などのように、複数の分岐が予想されるコミュニケーションの場合には、最低限このようなインタラクティビティの高い通信手段を用いるべきでしょう。そうしないと貴方は、気づかないうちに妙なコストを抱え込んでしまうことになります。また、だからといって電子メールを否定するという事でもありません。電子メールは単純な情報伝達にはとても便利な機能です。音声通信等にくらべ保存性と資料性(検索性)が高いことは逆に大きなメリットです。ですので、例えば仕事に必要な情報を誰かに伝える場合、これらを上手く併用することが重要になります。例えば相手に何かを伝える時、基本的な情報等を電子メールにまとめて送信し、内容を確認してもらった後に VoIP ツール等を用いて内容の理解の確認・補足・質疑応答を行うようにすると、意思が的確に伝わり、後で参照できる資料も残せて良いようです。また、議論の後のまとめを電子メールで作成して共有するのも良いでしょう。

でもそれでも、ネットワークを介して仕事をしようとする貴方は、隣席の同僚に質問するのと比べるとまだまだ大きなハンディキャップを持つことになります。例えば、仕事の中での疑問はいつ出てくるか分かりません。通常は作業を進めていると、その過程のところどころで発生します。そんなとき貴方は、隣の同僚をチラっと横目で見てみます。忙しそうにしていますか? そうでもないですか? 忙しそうにしていたら多少は遠慮するかもしれませんが、そうでもなければ声を掛けて質問してみるでしょう。同僚は「やれやれ」とこぼしながら、貴方の PC の画面を覗き込み、指さして「ここはこうだよ」と教えてくれます。「ああ、そうだった」と貴方は納得します。ついでに、コーヒーでも飲むかと同僚は誘ってきます。いいね、と貴方は付き合います。

離れた場所で仕事をしているとどうでしょうか。同僚は忙しそうですか? 見えないので、わかりません。VoIP ツールのステータスは「退席中」になっています。退席しているのでしょうか? いや、お昼休みの後、ステータスを退席から通常に戻していないのかもしれません。メールで聞いてみますか? チャットで呼びかけてみましょうか? とりあえずチャットで呼びかけてみます。彼はやはり席に戻っていました。ちょっと忙しいけど、まあ良いよ、と言ってくれます。VoIP ツールでコールして質問してみます。「ここなんだけどね」。「ここと言われても分からないよ」ああそうだ、と思って言い直します。「編集メニューから○○→○○と選択したらダイアログが出るよね、そのダイアログの下から3番目の…云々」云々。その結果、「ああー、これはね」と質問内容を理解した同僚は言います。「えっとね、○○○パレット出てる? 出てる。うん。えっと、そのパレットの左側の三角のぽっちを…云々」云々。VoIP ツールで話しながらでもこの調子です。何とか貴方は意図した回答を得ることができましたが、これでは隣に並んで仕事している場合とくらべて何倍もコストが掛かります。チャットだとなおさらですし、メールではこういう質問は質問の文章を書くあたりからカナリの難関です。そして、もちろんですが、コーヒーも飲めません。同僚がチャットでコーヒーカップのアイコンを送って来ました。「頑張れよ」と書き添えてあります。貴方も「ありがとう」と返事を書いたりします。これはたった1つの質問でのやり取りですが、こういうことを繰り返していると、いい加減同僚も相手をしてくれなくなるかもしれません。結局、多くの人は、一通り作業を行って、その間の疑問事項をまとめてメールすることになると思います。このように、単に離れて仕事をするというだけで、そのネットワーク越しのコミュニケーションの両岸には、思うよりもずっと大きな負荷が生じていくわけです。

新しい価値を。

また、一緒にコーヒーが飲めないことも、実はとても大きな問題です。上の例の貴方と貴方の同僚のやり取りは、それがある程度親しい関係であることを想定しています。実は、既に出来上がった人間関係の上でのこういったコミュニケーションは、まだ多くの救いがあります。しかし、業務上のつながりしか持たない希薄な人間関係上のコミュニケーションは、さらに深刻な被害をもたらします。同じ職場で働くこと、コーヒーを飲むこと、退社後にご飯と食べに行くこと、愚痴を交わすこと、趣味について話すこと、家族や恋人について話すこと、取るに足らないつまらない話をすること、仕事が遅くなって終電を逃し近くのビジネスホテルまで一緒に歩くこと。そんな一つ一つが、人間関係を育み、その人間関係が日常の円滑なコミュニケーションを支えていくのです。

バーテムズでは当初、もともと同じ職場で働いていた仲間が分かれて働き出した為、良く知った仲間同士がコミュニケーションをすることでそういった問題が幾らか隠されていました。しかし、月日が流れて人が変わるに従い、相手が誰なのか、誰にも分からなくなってきました。誰とも分からない相手と、毎日メールのやり取りをします。納期に遅れたスタッフが、メールの中で謝ってはいますが真摯な感じがありません。難しい仕事を安い価格で押し付けるプロジェクトマネージャーやお客様がいます。些細な作業だからと、追加費用はありませんでした。誰か知らない相手は、貴方の感情の中でインスタントな人格を持ちます。その人格が相手そのものである保証はどこにあるのでしょうか? だいたいの場合、それは貴方の分身でしかありません。相手はいつでも真剣で、一生懸命やっているかもしれません。でもネットワークの向こう側の「実態」を感じることは、実は思ったよりもずっと難しいわけです。

今、バーテムズはこのような難しさを何とか解決してみようと考えています。それは、ネットワークというインフラをどう上手く既存の社会と文化に馴染ませていくかという現実的な挑戦です。それは冒頭に挙げた「場所や時間に極力制約されずに人々が働ける会社を提供したい」という事とは少し違っています。僕らが取り組んでみたいのは「場所や時間に極力制約されずに人々が働ける社会の実現」に他なりません。これがバーテムズの理念です。それはきっと、今のこの世の中に新しい価値を生み出す事になるでしょうし、ネットワークというインフラを本当に意味で成熟させる為の挑戦だと、僕らは考えています。


2006 年 12 月 25 日

株式会社バーテムズ COO 野島 祐慈

お問合せは、 まで。